「お客様指定の強度区分8.8のボルトの在庫が無いので、10.9で手配しましたよ…」
より高強度のボルトであれば、問題が無いと考えるのはNGである。

JIS B 1051は、炭素鋼・合金鋼ねじの機械的性質について定められた規格。
このJIS規格は、国際規格のISOとも同一なので、メトリック採用の国どこでも同じことが規格化されている。

同規格の、「表3―おねじ部品の機械的及び物理的性質」では、4.6から12.9までが規定されている。
JIS、ISOでは、12.9が最高強度の規格である。
それ以上の強度区分がJIS、ISOで規格化されていないのは、遅れ破壊などのリスクが増大するためだ。
市場には、在庫流通しているが、設計者は注意が必要だ。

余談だが、高強度ボルトに関して、日本は、10.9と12.9が流通しているが、ヨーロッパでは8.8も多く流通している。
遅れ破壊、水素脆性などの問題を、8.8の強度区分まで落とすと、安全性が格段に増すためである。

なぜ、設計者はボルトの強度区分を8.8や10.9等と指定するのであろうか?
同じコストであれば、熱処理をする高強度ボルトは、最高強度の12.9に統一してしまえば良いではないか。
そこには、技術者、設計者の思惑があるのでボルトの強度を使い分けているのである。

例えば...
大きなプラント工場。
油圧や空圧異常などが起きた場合、圧が低くなれば爆発などの危険が無いが、何かの不具合で異常圧力になった場合、
設計者が意図的に弱い個所を設計しておけば設計上の一番弱い部分からオイル漏れなど発生して、事故や不具合のリスクをプラント全体に広げることが無い。
その為に、8.8のボルトを設計者が指定していたら?
その個所に、より高強度のボルトを使用してしまったら?

ボルト、ナットなどは一番安価な機械要素部品。
それでも、設計者の意図がある。

[コラムニスト]
株式会社サイマコーポレーション
グループCEO & テクニカル・セールス
斎間 孝